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小豆を煮ながら思い出したこと。

2022年2月18日
コラム
栗田 さつき

一人暮らしの気楽さから、このところ手をかけた料理を作ることがめっきり少なくなりました。スーパーやコンビニで出来合いのお惣菜を買うことも日常的、大いなる手抜きの日々。60歳を過ぎて、恥ずかしながらズボラな食生活を送っています。

ダメダメ、これじゃダメだ!

ふと目にした正月の切り餅、小豆を煮てあんこ餅にして食べようと思いつきました。小豆を煮るのはそう難しくありません。小豆を洗い、たっぷりの水を入れて火にかけ、一度茹でこぼしたら再度水を入れ火にかけます。あとは鍋のそばに張り付き火加減や水加減を見ながらアクをとり一時間ほど煮る。鍋でコトコト、砂糖を加えてさらにコトコト煮込み、最後に塩をひとつまみ加える。プロセスはたったこれだけですが、私の中では大層な料理を作った気分になります。

粒あんのできあがり。
あんこと焼き餅。

煮豆といえば、以前は正月用の黒豆も自分で作っていました。慌ただしい中でも時間をかけて丁寧に手作りし、シワもなくふっくらと艶やかに仕上った黒豆に、我ながら得意げに正月を迎えていたような気がします。

久しぶりに木ベラで鍋の底から小豆をかき混ぜていると、ふいに昔の料理本を思い出しました。私が作っているあんこのレシピは、30年以上も前に古本屋で買った料理本『娘につたえる私の味』(辰巳浜子著)がお手本。昭和44年に出版された本です。今では娘さんである辰巳芳子さんの「命のスープ」のほうが知られていますが、お母様である浜子さんは料理研究家の草分け的存在です。

料理のお手本。

神保町の古本屋街や、時には高田馬場、池袋、新宿などのデパートや公園で不定期に開催される古本祭りの催事に出向いては、料理本をはじめさまざまなジャンルの古本を買ったものです。

仕事の資料以外で、私が個人的に心惹かれたのは装丁が美しい本。懐かしい趣がありながらも美しくお洒落で、今の時代でも新鮮に響きます。美しく丁寧に作られた本は中身もしっかりしている。これは私が経験した確実な法則です。

昔の童話は私の宝物。右から並ぶ横文字のタイトルが古さの証。
ケースから取り出すとこんなに素敵な表紙が現れます。

若い頃は仕事優先で、昼も夜も食事は毎日外食。休みの日にごくたまに作る料理には気合いが入り、一人味わっては料理の出来のよさに自己満足に浸っていたよう。70年代のベストセラー、桐島洋子の『聡明な女は料理がうまい』を倣い、独りよがりの勝手な思い込みで料理しては悦に入っていたあの頃。あんこや黒豆もそんな若いときに覚えた料理です。

連休の一日、たっぷりのあんこでお餅を食べ、古い本を読み返しながら、思い出に耽る休日となりました。

栗田 さつき
編集一筋、だいたい30年(微妙なお年頃なので)。楽しい情報をいっぱいお届けします。